ソフトバンクのケースから、事業承継の難しさを考える

少し前の話になりますが、ソフトバンクの孫社長が、予定していたニケシュ・アローラ副社長への禅譲を撤回したことが話題になりました。

そのアローラ氏への独占インタビューが、6月25日付のフォーチュン電子版に載っています。これを読んで、私は今回のことはアローラ氏、ソフトバンク双方にとって良かったのではないか、と感じました。なぜなら、インタビューから垣間見えるアローラ氏のビジネス観と、ソフトバンクの企業理念とは合わないように思えたからです。

インタビューの中でアローラ氏は、「規律立った投資とは、いつ買って、いつ売るかを決めることだ」「ソフトバンクは昔から出口戦略が下手だ」「我々は(ソフトバンクの投資手法に)厳格な視点を持ち込んだ」と語っています。一方、ソフトバンクグループのホームページの「ビジョン」の項目には、「その時代、時代で、世界で最も優れた企業とパートナーシップを組み、長期間にわたって成長できる企業集団を目指します」「志を共にするグループ企業を30年以内に5,000社規模に拡大したいと考えています」という文言があります。

つまり、アローラ氏は投資マネジャーとして、買収した企業は売却か上場でキャッシュ化するのが望ましいと考えているのに対し、ソフトバンクは、投資する企業を「長期間にわたって成長できる企業集団」の一員、および「志を共にするグループ企業」のひとつである、と考えています。

価値観の問題は、どちらかが正しくて、どちらかが間違っているということではないため、溝を埋めるのは難しいものです。今回のケースでも、アローラ氏の考え方は投資マネジャーとして非の打ちどころがなく、ソフトバンクの経営理念も大企業として申し分のないものです。それだけに、深刻な“文化の衝突”が起こる前にそれを未然に防いだという意味で、孫氏がアローラ氏と袂を分かった今回の判断は、結果的に正解だと考えます。

今回の出来事から、私が普段対応する中小企業の事業承継にも生かすべき教訓は、「後継者は能力以上に、理念の共有ができる人物を選ぶべき」ということです。親族間承継、内部昇格、外部招聘など、形は違えど後継者を選ぶ際の基準として、その人の能力や優秀さに目が奪われがちになります。しかし、どんなに優秀な人であっても、その企業の価値観や理念を理解していなければ、その優秀さゆえに、意図せず会社に不利益な行動をとってしまう可能性があります。

中小企業の経営者が高齢化し、事業承継が企業支援の大きなテーマとなっている昨今、ソフトバンクのような大企業でもこのような出来事があったことは、承継の難しさを浮き彫りにして、いろいろと考えさせられました。